Taylorのリセットとネックアイロン調整の話。
アコギのネックはどうしても元起きしやすいという話をその1に書きました。
しかし,どうしても音色と弾きやすさにシビアになって来ると,この元起きは困るんです。
先日,岡崎倫典師匠のギターを秋田ライブの際にチェックいたしました。
わたしは倫典師匠のグレーベン・ホワイトレディをかかえております。
この日私はPA担当でしたので,片付けもお手伝いさせていただきました。
弦高は驚くほど低く,トミーとほぼ同じレベルかなと思いました。
というか,プロのギター調整はある程度似ていて,弦高低い派の場合は,6弦12Fで2ミリ以下です。
1弦は1.5ミリかそれ以下です。
(; ̄Д ̄)なんじゃと?
アストリアスのソロプレミアムというギターがフィンガー用として,12Fの6弦が2.3ミリ,1弦が1.8ミリと宣伝していました。
メーカーが考える弾きやすいというレベルからさらに低いところに多くのプロの調整は来ていますね。
もちろんギターの弦長やテンションが違えば調整の仕方は変わるのですが,弾きやすくて,握力がとりわけ強くない人でも長時間弾けるギターに仕上げるには,6弦2.0の1弦1.5ミリくらいにしたい所です。
もしも,さらにギターが鳴るタイプで,テンション感も残るなら,1.9ミリの1.4ミリにしたいくらいです。
そして,可能ならネックは限りなく,超真っ直ぐに(近く)したいと思うのです。
ネックをまっすぐにした場合は,同じ弦高でやや順反りにした場合と,テンション感と箱鳴り感がいくらか違うと私は思っています。
ネックが弓になると,構造上ネックにも負担ですし,弦振動の支点の位置が変わるので,振動の重心が少し変わると思っています。
なにか科学的なデータは出せないのですが,音色と弾きやすさを感じる自分のオタクセンサーがそう言うのですね。
(* ̄m ̄) ププッ
ネックは真っ直ぐが最もテンションが軽くなると思います。
トミーも「ネックはフラットが好きなんだ」と言っていました。
トミーはおそらくフレットを端から端まで使うので,テンションにばらつきがあるのがいやということもあるのでしょう。
おそらくですが,彼は感覚的に反りがない方がテンションが軽くて弾きやすいというのを感じているからだと思います。(想像ですが)
2007年7月の横浜でのトミーのギターワークショップの終了後の様子です。
トミーが自ら完璧というギターセッティングを触ってしまいました。
12Fの弦高ですが,6弦は2ミリぎりぎりくらいですが,すごいのは1弦で,1.5ミリ以下だと思います。
1.3ミリくらいかも。
これでも,バランスよくアンプから出力するので,ピックアップのバランスも高度なレベルで取ってあるんでしょう。
その関係を少し図にしてみました。
① まっすぐストレート
弾きやすさを考えると真っ直ぐが理想でしょうね。
もしもネックがジョイントで起きているならどうなるでしょうか。
② ネック元起き(ネック起き)
ネックに逆反り方向のアングルが付いていて,相対的に14F以降が下がって見えるギターの場合は・・・。
③ ネック倒し気味
こういう風に作る製作家の方もいると思います。
この絵は少し強調されていますが,わずかにこういう風にジョイントする方がメリットが多いような気もします。
いずれギターのネックは起きてくるのですから,最初からこうすることで使用時間が長くなるように思います。
それで,弦高ぎりぎりにするには上記の①か③である必要があります。
②ではどうやっても弦高を下げられません。
日本の湿度で空調管理がなされていないギターはどうしても,ネックが起き気味になります。
マーチン,ギブソンのカスタムではないモデルはかなりの頻度で起きてきます。
ビンテージシリーズクラスでもありますし,サザンジャンボでも結構あります。
コリングスはこの部分が優秀といわれていますが,やはり,起きないわけではありません。
個体によって起きているものもあります。
もともと木ですから,乾燥機で乾燥させたり,電子レンジをかけたりして硬くさせてみても,工作精度が甘ければすぐに起きになってしまいます。
14Fの下に何もないのですから,エレキと違って起きやすいのですね。
アコギの構造上の欠点という人もいるくらいです。
このような原理ですので,一部のリペアマンが②のネック起きの対処法として14F以降のフレットを抜いて,指板を削って見かけ上指板をフラットにするというのは私はベストな方法とは思えません。
それだと14F付近が使えるようになるというだけで,弦振動の重心が変わったのはそのままです。
本来の音は出せないと思います。
でも,フィンガーピッキングですから弦高をぎりぎりまで下げたいのです。
それで,ネックが起きてしまったらどうするでしょうか。
ネックの話その1にもいくつか書きましたが,さらに他の方法を紹介いたします。
まずは,この分野で最も進んだネックを作ったメーカーはテイラーだと思います。
2001年から(一部はその前から)NTネックと呼ばれるものを採用しました。
NTは NEW TECHNOLOGY の略です。
w(°o°)w おおっ!!
どのように新しいか。
当然,14F以降の指板の下にネック材がないというのが問題ですので,ある程度の厚みのネック材が14F以降も指板の下に入っています。
そして,すごいのはボディとネックはボルトだけのジョイントで,接着材は使いませんが,そのボディとネック材の間に角度調整用のシム板が最初から入っているのです。
それも低音側,高音側に分かれているので,指板のねじれにも対処できるものと思われます。
ボジョアの宣伝には「職人ならネックを15分ではずせる」とありましたが,テイラーは「5分あればはずせる」というのです。
それで,時間がかからず危険も少ないのですから,費用は安いんです。
実際に私もテイラーのネック起き調整に出してみましたが,この調整費用が5000円で,さらにタスクサドルの交換の費用プラスで,何と6000円以下で出来てしまったのです。
しかも,預かりの時間が驚くほど短いのです。地方から依頼しても,およそ1週間くらいでした。
(ノ°ο°)ノ オオオオ
某大手メーカーの代理店でネックリセットをお願いすると,数ヶ月の期間と16万円という請求が来るということからすると革命的なNTネックですね。
私の持っている,2001年製のテイラー314ですが,はっきりとわかる元起きがあり,12F~14Fは1,2,3,4弦までが,バズっていました。
生徒の皆様にもこのバズりなるものを確認していただきました。
3弦がバズるのでありゃりゃ…という気持ちになります。
もちろん箱は鳴りますが,鳴りすぎの感じもあります。 プレーン弦の艶が足りませんね。プレーン弦は弦なりと箱なりのバランスが大切ですね。
これがリペアに行って戻ってきたらこうなりました。
ネックの通りを見れますか?
6弦側のフレット端の通り具合を見るんですよ。
反対側からも見てみましょう。
左右見てみましょう。
ちょっとマグネチックがあって醜いですが,14Fから下がっていますね。
この指板の通り具合が弦高を下げられるかどうかを決めるんですね。
14Fのジョイント以降はわずかに下がっているくらいに見えますが,弦を張って何日もそのままスタンダードチューニングにして放っておくとほぼフラットになります。
このネック状態で,弦高はどこまで下げるでしょうか。
6弦は2ミリを切るくらいです。1.8か1.9かな。張りっぱなしでも2.0以下です。
1弦側は1.4ミリというところでしょうか。張りっぱなしでも1.5ミリ以下です。
そして,ナット側もかなり下げています。
しかし,最近は私の調整の技術も進歩してこのセッティングでも音量は下がりません。
むしろ調整前よりも上がったりします。音色と弾きやすさと音量をバランスさせますよ。
そうなると,弾きやすさはどうでしょうか。
O(≧∇≦)O イエイ!!
最高です。
力が要りません。軽く軽く弾けます。
このギターならトミーの曲も練習する気になります。
ネックがいいんです。テイラーは。業界一という評価もあるくらいです。
このネックリセットが6000円以下ということになると,もう弦は張ったままでもいいような気がしてきます。
また起きてきたら1週間リペアに出して6000円ですから。
これは確かにNTネックですね。
これを実現できたのはテイラーだけですね。
さらに,すごいのはネックリセットなのに削ったりしませんので,ネックの塗装の継ぎ目などが全く最初と同じ状態です。
下手なネックリセットに出すと,ギザギザでネックをリセットし直しましたというのが明らかな場合があります。
あれは避けたいですね。
あとは生音が本当にいいと思えるテイラーに出合えればOKですね。
アコギである限りここが大切なポイントですよね。
どうしても,新しいテイラーはいい音に感じられないものが多いのが難点ですね。
確かにPSモデルとか,900シリーズとか高いものはいい音がしますよ。
NTネックのギターは2001年から全機種といわれていますが,・・・。
正確には1999年ごろからNTネックのギターです。
NTかどうかの見分け方はサウンドホール内部から16Fか17Fあたりの指板の裏側を見ます。
するとボルトが見えます。
鏡を入れてみましょう。
指板の裏にこれがあればNTネックだと思います。
このネックリセットに出して肝心の音色はどうなったでしょうか。
ある人はネックリセットをすると音色が悪くなると考える人もいます。
私は違うと思います。
正確に言うと,リセットした人が悪かった場合は悪くなることもあり得ます。
でも,上記の図のようにネックの位置が正常に来れば本来のギターの音色が出るはずです。
このテイラー314もネックが正常になって初めて本来のテイラーの弦の輪郭があり,弾きやすく,鳴るギターになりました。
ハーモニクスも非常に長くなります。テンションが正常で,弦振動がきれいに出るギターの特徴ですね。
しかも,もしも起きてもまた調整に出せばいいやと思えば,気楽にスタンダードチューンで張りっぱなしです。
O(≧∇≦)O イエイ!!
この点では全く新しい時代のギターであり,アメリカNo1ギターというのもうなずけます。
あとは新品時点での音色かな。
すでに6年弾きこまれて,さらに調整が入った私の314はカラッとしていながら,プレーン弦が安い音にならない感じでいい音ですけど,店頭で弾くテイラーは高級器以外そんなにいい音に感じないのが残念です。
(ToT)>゛スンマセン 正直で。
テイラーのネックリセット以外の方法はどうでしょうか。
ネックアイロンという方法があります。
これはかなり有効な方法です。
本来のネックが弦の力で曲がってしまったわけです。
それをネックリセットして削って直すというのは考えてみると,少し乱暴ではないでしょうか。
力技というか悪ければ患部は切り取ってしまおうという西洋医学的な手法ですよね。
それに対してもっと東洋医学的というか,いったん曲ったネックをまた曲げ直す方法があります。
(  ̄O ̄)ホー
秋田名物に「曲ワッパ」なるものがあります。
ギターのサイドやカッタウェイを曲げる作業に近いのですが,熱を使って木を曲げていくわけですね。
他にも秋田には木を曲げる木工技術を持った会社があります。
このように木という素材は非常に柔軟性があります。
ここがすごいところですね。
そうすると,曲がったネックを削ってリセットするというのと,曲がったネックをまた熱で真っ直ぐに調整するというのはどっちが本当のリペアなのだろうかとつい考えてしまいます。
ネックアイロンもある人は「曲げてもまたすぐに元に戻るでしょう」という意見の方もいます。
それは,リペアマンの腕とも関係があります。
熱をかけて一気に曲げ直すと,一気に戻る可能性がありますが,時間を短くして,日数をかけて曲げ直すと戻りにくくなります。
この辺のアイロン技術で非常にレベルの高いリペアをされる方もおられます。 私のラリヴィーL-10もこの技術でネック調整していただきました。
最近の私のメインギターです。
すでにトップの塗装は退いていてビンテージの鳴りが出ています。
レスポンスは非常に良くて,ローズのサイドバックですが,ボディが軽く感じます。
ロッドは入っていますが,アジャストがないタイプです。おそらく90年ごろでしょうか。
実はマーチンも85年からアジャストロッドで,それ以前はアジャストできませんでした。 ネックが反ったら,アイロン調整しかないんです。
シダートップですか言われるくらい色が濃くなっています。
17年くらい経っているのでしょう。
これくらい使ってもトップが膨らんでこないのは,ラリヴィーのブレイシングが左右対称でクロスする角度なども考えているからでしょう。
このブレイシングはある周波数が特別響くというよりも,どの弦もどのチューニングでも均一に響くという点にあります。
どうしても,マーチンのスキャロップブレイスなどは新品でも鳴るというのはすごいのですが,変則チューニングの際に鳴りすぎる場合もあり,DADGADなど同じ音が多いと,鳴りすぎてモヤモヤするような場合もあります。
その点,ラリヴィーのバランスは素晴らしいです。
スタンダードチューニングではテンション感が強いかなと思ったりすることもありますが,それは弦高と調整でカバーできます。
というわけで,いいことがたくさんあるラリヴィーですが,欠点は元起きするギターが結構あるという点です。
ネックジョイントの精度が低いというよりも,ワンピースネックを使っているというのもあると思います。
ネック起きを防ぐ意味でも,ネックヒールを2分割にして合板にしているメーカーも結構あります。
ヘッドウェイもそうなっているのもあります。ドライゼンターはさらに数段階にブロックを増やして強度を上げています。
マーチンのようにワンピースでダブテイルの場合はネック起きが生じやすいのでしょう。
おそらく,精度にプラスしてネック材の強度不足でワンピースが曲がってきたということでしょう。
ラリヴィーは下ランクのモデルでもワンピースネックです。
それをアイロンで調整していただきました。
ちょっと見えにくいのですが。
ボディエンドからのフレットの端の通りを見れますか。
14F以降が軽く下降している感じです。
14Fまでは非常にわずかに順反りがありますが,ストレートに近いです。
アジャストロッドがないので,弦の太さで反り具合が変わったりします。
弦はダダリオEJ16がやはりラリヴィーには合いますね。
O(≧∇≦)O イエイ!!
このギターはネックリセットもされているかなという感じですが,それでもわずかに元起きがあり,弦高を下げるのに限界がありました。
それをアイロンで微調整していただきました。
今の弦高は12Fで1.9ミリの1.5ミリくらいです。
それでもカポ7にしてバズることなく演奏できます。
スカボロフェアーもきれいに響きますよ。
見えにくいですが,6弦が2ミリ以下になっています。
これは張りっぱなしの時間と,使用する弦で変わり,最高で2ミリです。
この後戻りしにくい高度なアイロン調整が出来ればどんなギターも本来の正常なネックになることができます。
(ノ°ο°)ノ オオオオ
さらにネックを倒し気味に調整することさえ可能です。
サドルの高さが足りなくて弦高を下げられないギターはそのようにすることも不可能ではありません。
結論としてこう考えることもできます。
すべてのものは使っていけば減るパーツがあります。
車もタイミングベルト交換とか,ピストンリング交換とか,ショック交換とか使用に伴ってある程度費用が発生します。
実はギターも同じで,弦などの消耗品以外に,フレットも減ります,ペグのギヤも減ります,ネックも起きてくるのです。
それでネックが起きてきたら定期的にアイロンで調整して,いつもグッドコンディションで弾くという考えもあると思います。
使用料の一部と考えるのですね。
それが安いのがテイラーで,ふつうのギターはアイロン調整を何年かに一度,もしくは10年に一度かになるか,いずれも定期的にそうして使うというのはどうでしょうか。
リセットすると最低6万位の費用がかかります。
アイロンは3万以下だと思います。
リセットしてもまたいつか必要になる可能性もあります。
アイロン調整とリセットとどっちがいいリペアなのかは一概に言えません。
( ̄ヘ ̄;)ウーン
症状やギターの価値などでも変わってくるかもしれませんね。
このネックの状態をまず最初にきちんと直さないと,ナット,サドルの調整はそのあとまたやり直すことになります。
最初にネック調整というのは正しい考え方だと思いますよ。
しかし,私もオタクの道を進んでいますので,これまでたくさんのショップ,リペア公房,手工家,セミプロ調整家の方々にナットサドルをいじってもらったのですが,どうしてもだめでした。
o(ToT)o ダー
結局ここだけは自分でやります。
ラーメン屋さんで最後にコショウをどれくらいかけるかに近いのですが,自分の好みに調整できるのは自分だけなのかもしれません。
調整をする方の多くが音色を優先しすぎて,テンションを上げてしまい,弾きにくいギターになることがあります。
音色にこだわる姿勢はわかるのですが,演奏しやすくなければ,いい音楽が出てきません。
開放弦がいい音ですよと言っても,それはあまり意味がないことだと思います。
( ̄Λ ̄)ゞ んむっ
弦高は下げて,なおかつ音色は良くしたい,音量も確保したい。
という相反するようなことを求めているのですが,最近はかなりバランスを取れるようになってきました。
それで,私はネック調整とフレットすり合わせまでをやってもらってあとは自分でやるのでした。
オタクだから。
私のギターをアイロン調整してくださったリペア工房を紹介いたします。
リペアマンの藤岡さんの技術は光る物があります。
新岡ギター教室WEBからの紹介で,とメールすればきっとサービスがあるはずです。
いいものをもらえたりするかも。
ネック起きがあって困っている方はぜひ相談してみてください。
他の調整のことでも何でも相談にのってくれると思います。
ある人は料金が高いと思うかもしれませんが,仕事の内容からすれば決して高いとは思いません。
ボディサイドのストラップピンもシャーラーのロックピンで付けてもらっています。
内側に少し細工をするプロの仕事です。
ネックリセットかアイロンか。
いずれにしても,ネックが正常な位置にあるというのがギターの音色の大切な要素といえますよね。
∠( ̄∧ ̄) ラジャ!
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